オ | 晩夏半 | 晩夏光今宵我らは酒祝(さけほがひ) | 川野蓼艸 |
晩夏半 | 笑ひの渦に凛と向日葵 | 尾山祥子 | |
自 | 我が詩藻螺旋を巻いて伸びゆきて | 志治美世子 | |
/ | ポテトフライと転ぶビー玉 | 田辺つる路 | |
三秋他 | 鍵盤は短調の月奏で出で | 種川とみ子 | |
三秋他 | 眉爽やかに来場所に期す | 友野海也 |
ウ | 晩秋自 | レモン置く神保町(じんぼうちょう)の古書店に | 古川柴子 |
半 | 栞の隅に「待つ」と一片 | とみ子 | |
半 | 指つなぎ夜の迷路の水族館 | 柴子 | |
自 | 涙の睫毛卓に忘れし | 柴子 | |
自 | 魂を風になびかせ風に消ゆ | 祥子 | |
三冬他 | あっけらかんとトラ河豚を食ふ | つる路 | |
三冬/ | 刻々と育つ氷柱に月封じ | 美世子 | |
/ | 遠く遥けき鳥葬の唄 | 美世子 | |
自 | マンモスをそっくりと掘るシベリアに | とみ子 | |
自 | 頭に載せた神を地に置く | 祥子 | |
晩春/ | 花びらを吸い込む笑窪空にあり | 柴子 | |
三春他 | 単身赴任強東風に乗り | 美世子 |
ナオ | 三春自 | 蝶々よ鈍行列車を越しなさい | 祥子 |
自 | グレンミラーをひねもすに聴く | つる路 | |
/ | 吊橋が頻繁に揺る ゴリラ来る | 海也 | |
/ | 考へる葦 観世音思惟 | とみ子 | |
半 | 首すじにかかる溜息熱かりき | 美世子 | |
自 | 女体の中を蛇行する川 | 柴子 | |
自 | 悲しみと交じり合へない地下にゐる | 柴子 | |
/ | おにぎりころと転がってくる | 祥子 | |
三夏他 | はだか行く崑崙山の懐を | つる路 | |
自 | 地図遡り少年となる | 祥子 | |
仲秋自 | 満月の金色の環を背にかざし | 美世子 | |
三秋他 | 新絹紡ぎ機織の音 | 祥子 |
ナウ | 三秋/ | むささびの滑空長き時間あり | 海也 |
晩秋/ | 奥入瀬の森木ノ実降りけり | つる路 | |
他 | 露天風呂硫化水素の髭の人 | とみ子 | |
晩春半 | 雛の客に接待の雪 | 美世子 | |
晩春半 | 花の影親のあれそれ積もりそむ | つる路 | |
晩春/ | 茶柱の立つ八十八夜 | とみ子 |
平成十九年七月二十四日(火)
於 中野「もん」
我々の仲間の志治美世子がどえらい事をやった。集英社主催の「第五回開高健ノンフィクション賞」を取ったのだ。「医療の光と影――隠蔽との闘い」。
私はこれは強敵だ、難しいぞ、と思った。何しろノンフィクションの芥川賞である。七月二十一日、受賞決定の日、彼女から電話がかかった。
「蓼艸さん、取った。ばか、ばか、ばか。」
彼女は何と言ったか覚えていないと言うが、確かにこう言った。
この日、初心者の集いと聞いて女性講談師の田辺つる路さんもこちらに合流したから、彼女の真打昇進とお祝いのダブルヘッダーとなった。出版記念会の司会は話の専門家のつる路さんと簡単に決まった。
又、この日、とみ子さんの紹介で友野海也さんという三菱重工出身の品のいいい紳士を迎える事になった。
私なぞとは格が違うのであるが、連句では私が古いのだから、仕方なくお教えする立場になった。これからも長くお付き合い願いたいものである。
我が「もん」の会も当分目出度い日が続く。今日、嫁入り前の祥子ちゃんも来たが、まづ彼女のさよならパーティーをやらねばならぬ。
十月に入るとつる路さんの真打披露興行が何日か続くし、十一月には帝国ホテルで美世子さんの受賞式があって、そのあと出版記念会をやらねばならぬ。
記念会と畏まらなくてもいいではないか。シベリアでマンモスが太古の姿のままで出てきて、皮膚に毛まで付いていたという。肉はどうなのであろう。マンモス鍋で一杯という訳にはいかぬか。賞金で我々にラーメン位はおごれよ、いや、ギョーザに缶ビール位つけろ。
次から次へと話題は飛躍し、切もなかったが「もん」のママに迷惑をかけてもと散会になった。