オ | 青春のコッヘルで煮る夜の雪 | 仏淵 健悟 |
ふわりとしたる白鳥の背な | 伊藤 哲子 | |
数式に√(ルート)の果てを追いかけて | 志治美世子 | |
鏡に映る時計見返り | 健悟 | |
月の舟プルシャンブルーの大海へ | 哲子 | |
柿の葉鮨を衆で分け合う | 美世子 |
ウ | 爽やかな瞳を持ちし楽屋猫 | 健悟 |
路地真直ぐに亀戸天神 | 哲子 | |
十六の肌に冴えたる藍紬 | 美世子 | |
夕べの夢を聞きたがる彼 | 健悟 | |
崩されたオムレットにはペパーのみ | 哲子 | |
遅刻厳禁定期更新 | 美世子 | |
株の値を睨み続けて梅雨の明け | 健悟 | |
西瓜割るごと月を蹴飛ばす | 美世子 | |
志ん朝も談志もよかろ江戸落語 | 哲子 | |
ホームの椅子は腰に優しい | 健悟 | |
渦潮を抱く入江は花に満ち | 美世子 | |
田鼠化しては鶉となるや | 哲子 |
ナオ | 面倒な人付き合いを麗かに | 健悟 |
馘首怖くて辞令破れず | 美世子 | |
ゆっくりとラオス珈琲味わいて | 哲子 | |
夢占いに現れる蛍 | 健悟 | |
配給の鉛筆配るNPO | 美世子 | |
幾山河越え塩の湖 | 哲子 | |
ぱたぱたと勝ち誇りたる象の耳 | 健悟 | |
爪を染めたる赤き実の汁 | 美世子 | |
あるあしたままごとのまま妻となり | 哲子 | |
畳んでくれぬ洗濯機とて | 美世子 | |
テノールの響き朗々月の庭 | 健悟 | |
神いますごと色変えぬ松 | 哲子 |
ナウ | 秋鯖のほどよく焼けて酒の膳 | 美世子 |
皆に推されて会長になる | 健悟 | |
無頼派の一念通す取材記者 | 哲子 | |
雲雀東風から軽くいなされ | 美世子 | |
花霏々と降りて明るき俵口 | 健悟 | |
画布のかなたに駆ける若駒 | 哲子 |
起首 平成十八年一月二十五日
満尾 二月九日
於 高田馬場ルノアール
健悟さん、そして下町連句会を率いる我らが「てっちゃん」こと、伊藤哲子さんの大先輩お二人に引っ張っていただいての歌仙でした。
平成十八年愛媛連句大会で、松山市教育長賞をいただいています。
花の座では、健吾さんが愛媛の連句結社「俵口連句会」に敬意を表しています。こういう社交術を教えられることも、連句ならではです。
健悟さんから教えていただくことは本当に多く、時には一句を十回近くも作り直したこともありました。
健悟さんはかつて、最大手のカルチャースクールで連句教室を指導し、また連句歳時記を編み、連句界最大結社の代表でもありましたが、現在は「もっと自由な立場で連句に関わりたい」と、まるで剣客修行武士のように野に下り、細やかに、そして活発に活動を続けています。
私の苦手な「結社流儀」を、健吾さんからは一度も押し付けられた記憶がありません。
いつだって楽しく、そして厳しく連句の世界を私の中に広げてくれる、ストイックでいて、そしてだからこそそこがかっこいい健悟さんなのです。