どこまでも散歩道〜志治美世子ウェブサイト



歌仙「前髪死ぬる」の巻

[独吟 志治美世子]

太棹に前髪死ぬる立夏かな
  客席に散る素袷の衿
  図書室の隙間に潜む秘密あり
  煉瓦の壁にかかる水彩
  語らいの相手は月と名指したる
  白粉花は闇に溶けつつ
オリーブの実は誘うマティーニはいかが
  ラタンの椅子の転ぶベランダ
  三輪車集まるちびっこ暴走族
  商店街の目玉商品
  ブラウスのレースに染みの少しある
  あなたの好きな深き襟ぐり
  足音に耳を澄まして待ってゐる
  辞令があれば西も東も
  ルナーA探索情報少なくて
  赤字の上に予算削減
  しんしんと花降る古木墓地の午後
  春の丘へはゆるき坂道
ナオ メーデーの昔闘士のざれ話
  女学生にはもてたとのこと
  目に付くは形ばかりの愛読書
  永遠(とわ)に若きを願う不埒よ
  懲りもせずウエストサイズサバを読み
  賽の目のみが知る勝負なり
  切り札のクラウンの目の奥の闇
  ドーベルマンは忠実な友
  満月に似合うアリアを聴きながら
  鶉料理も出来る頃合ひ
  たわわなる秋の恵みを祝福し
  風呂の熱さも程よきと言ふ
ナウ ジョギングに挨拶交わす退職者
  妻の語学が役に立つ旅
  欧州の宮城は美の殿堂と
  春の女神のあるを誇れる
  銀盤に立ちて舞ひたる花の舞
  闇か朧かやがて消へゆく

平成十八年夏、国立劇場小劇場で観た桐竹勘十郎さんの文楽が発句になています。この年の郡上八幡文芸祭で、佳作をいただきました。

ついこの前、こんなころまで、いつ巻いた巻なのか、日付を入れる習慣も意識もなかった自分のうかつさに、今さらながらにあきれてしまいます。

巻きっぱなしにしたまま、整理もせずにどこかにまぎれてしまった巻が、いったいどれほどあることやら。

まあ、連句はただ前句に付ける、一瞬のインスピレーションの文芸ですので、それもよしとしましょう。(本当でしょうか?)

本来独吟は、独りですべての式目をクリアし、かつ壮大な稲絵巻物のような世界を創りあげなくてはならないのですから、ものすごく大変で、しかも実力を伴った方だけが挑戦するものなのですが、私はまったくのいわば「お遊び精神」で、自分が楽しければただそれだけでいい、といういたって不真面目で恥を知らない精神で巻き始めてしまいます。

だから、「よし、独吟でも!」と思って巻き始めてから、三十六句巻き終わるまでの所要時間は、大体二時間ほどで、「ああ、面白かった!」といって終わってしまうのです。

ごめんなさい。

でも、永遠の「連句初心者」として自他共に認める私ですので、どうかお目こぼしくださいますよう。


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