どこまでも散歩道〜志治美世子ウェブサイト



いつでも会えるよね、節子さん(5)

節子さんが、座っていた椅子から、よろよろと立ちあがり、歩こうとしていた。

「歩けるの! 節子さん」

私が驚いて声をかけると、節子さんは、

「ううん、やっぱり歩けないの」

といった。私が

「負ぶおうか?」

と聞くと、

「そうね」

 といったので、私はしゃがんで背中を向け、節子さんを負ぶった。手のひらに、節子さんのお尻がまあるく、温かかった。

私は節子さんを負ぶいいつの間にか、ごろごろと大きな石が転がる、石切場のようなところを歩いていた。そして、その石はすべて墓石なのだった。

私は一足一足、それらの石を避けたり、踏みしめたりしながら、節子さんを負ぶったまま歩き続けた。と、向こうにトンネルの入り口がある。ところがその入り口は、土砂崩れで塞がれているのだった。

「通れないね、もどろうか」

「そうだね」

私たちは再び、もと来た石切場のなかを、歩いて帰っていった。

目が覚めた私は、夢の不吉だったことが気になって仕方がなかった。かといって、節子さんのところに一人で飛んでいくのは、私らしくもなく心細かった。

私は萌子さんに電話をかけ、たまたまその日スケジュールのなかった萌子さんとともに、節子さんの病室を訪れた。綾子さんが付き添い、節子さんは、眠っていた。

私は眠っている節子さんの手を握り、萌子さんや綾子さんと、おしゃべりしていた。いったいなにを話していたのか、今はもう思い出せない。いつも、節子さんと話していたように、あれやこれやと、とりとめもなく、楽しく、話していた。

気が付かない内に、そんな声が高くなっていたのだろう。眠っていた節子さんが体を動かし、眉根に皺を寄せ、声にならない声で「やかましい・・・」といったのだ。

私と萌子さんは、あわてて病室を辞した。

そうか、やかましかったか。申し訳ないのがほんの少し。そして私はやっぱり心の奥で、ほんの少し愉快だった。「やかましい」という言葉が、いかにも節子さんらしく思われて・・・。

その次には、節子さんは熱があって、会うことはできなかった。

そしてその次には、節子さんはもう意識がなかった。


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